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旅客鉄道運賃制度の解説



(目次)
1.はじめに
2.上限価格制とは
3.ヤードスティック方式とは
4.原価計算
(1)ヤードスティク方式による営業費の算定
①適正コスト算定

②経年努力算定
(2)その他営業費及び事業報酬算定
5.まとめ

1.はじめに



明治5年10月14日(陰暦では、9月12日)は、新橋・横浜間の鉄道が開業した日であり、この日が「鉄道の日」と定められ、全国各地で様々なお祝いのイベントが行われていますが、実際の営業は一足早く、同年の6月12日(陰暦では、5月7日)に品川・横浜間で仮営業がされています。この日が今日の鉄道運賃制度の始まりです。
ちなみに当時は「運賃」と言わず、「賃銭」、あるいは「賃金」と称し、品川・横浜間1円(中等)でした。
以来運賃は、距離ごとの確定額をもって認可が行われ、この額を上げる場合はもちろん、たとえ下げる場合でも認可が必要とされてきました。
この「認可」という規制は、鉄道事業の持つ特殊性からみて、有効な市場競争が形成されて望ましい運賃の提供が行なわれていくことはむずかしいとの判断から行なわれています。
一方、公共料金をめぐっては、「高くなりすぎていないのか?」、「どのように決定されているのか良く解らない。」等の疑問の声や、またイギリスでのプライスキャップ方式による公共料金の見直しがあり、更には規制緩和の流れの中で運賃のあり方の議論が高まり、国において制度そのものを抜本的に見直しがされることとなりました。
その結果、平成9年1月にそれまでの確定額を認可する方式を改めて、上限となる運賃額のみを認可し、それ以下での運賃設定は鉄道事業者が自由に行なえる「上限価格制」が採用され、併せてヤードスティック方式(基準比較方式)等も強化した「新しい旅客鉄道運賃制度」が実施されました。
これに伴い運賃を規制している鉄道事業法も平成11年に改正されています。

2.上限価格制とは


この新しい旅客鉄道運賃制度での上限価格制とは、上限となる運賃(以下、単に上限運賃という)による収入が、総括原価(総括原価=適正原価+適正利潤)を超えないことを確認して上限運賃のみを認可の対象として規制する制度です。
この上限運賃は、当該鉄道会社の運賃水準を示すものであり、この水準額以下であれば鉄道会社が自由に運賃体系の変更や運賃を下げたり上げたりする運賃設定や変更が届出によりできます。
上限運賃以下であれば実際に設定される運賃には、原則として下限が設けられていません。 鉄道会社が自由に運賃を設定できることになっています。
この上限価格制が活用されて、運賃が低下することは利用者にとってメリットがあることは言うまでもありませんが、鉄道会社にとっても運賃を下げることにより需要が拡大し増収が図られることとなり、加えて経営の効率化の推進によって原価水準を下げることに成功することによって、得る利潤を最大化することも可能となります。→運賃を下げると儲かる?
既に各地で低廉な運賃の設定が行われているところですが、本制度を活用して、季節ごとの運賃や曜日ごとの運賃、時間帯ごとの運賃など創意工夫された多種多様な運賃が利用者に提供されていくことが期待されています。
3.ヤードスティック方式(基準比較方式)とは


総括原価の算定において、事業者間で比較可能な営業費の原価は、ヤードスティック方式(基準比較方式)により行われます。
ヤードスティック方式とは、各鉄道事業者の費用を事業内容や、事業環境の違いを補正する指標で回帰分析した回帰式から、基準となる標準的なコストを算定して運賃水準を決定する方式であり、最小限のデータから最大限の効果を引き出すことを意図して方式が設計されています。
回帰式に使用するデータは、全て公表されるデータを用い、回帰式のパラメータ、基準単価、基準コスト等の結果は運輸省から毎年公表されます。これにより、事業者間で間接的な競争が促進され経営効率化が進むことが期待されるとともに、運賃改定時にはこの回帰式による計算でコストが算定されることから透明性が向上し、規制のコストも縮小されました。
回帰式等の公表に至るまでの手順は次のとおりです。


はじめに、当該年度の決算関係データを「線路費」、「電路費」、「車両費」、「列車運転費」及び「駅務費」の5費目に区分します。次にこの各費目を適切な施設量で除して単価化します。
この単価を事業内容や事業環境などの相違を補正する指標で回帰分析を行い、回帰式を決定します。
回帰式から算出される事業者ごとの理論値を「基準単価」と言い、基準単価に当該事業者の施設量を乗じたものが基準となる標準的なコストで、「基準コスト」と呼ばれています。

公表は、当該年度に使用する回帰式や基準単価のほか、この基準コストと実際の支出されたコストの「実績コスト」の比較も鉄道会社ごとに行われています。
→国土交通省のホームページ http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo_news.html
ヤードスティック方式は、JR旅客会社6社、大手民鉄15社及び地下鉄事業者10社の3グループ合計31社で行われています。
(参考)基準単価・基準コストの算定フロー

 営業報告書類
 
 1線 路 費 2電路費 3車両費 4列車運転費 5駅務費
 
 

費 目

施 設 量

説 明 変 数

線 路 費

電 路 費

車 両 費

列車運転費

駅 務 費

線路延長キロ

電線延長キロ

車 両 数

営 業 キ ロ

駅 数

線路1キロ当たりの車両キロ等

電車線1キロ当たりの電車走行キロ等

1車両当たり車両走行キロ等

1営業キロ当たりの列車走行キロ等

1駅当たりの乗車人員等

 
 
単価化したものを事業内容や事業環境などの相違を表す指標で回帰分析した結果の理論値を「基準単価」とします。

列車運転費

13,712

1,060

6,941

38,319

113,048

20,931

3,320

6,612

67,269

157,438

19,739

2,037

7,119

61,425

117,048

29,602

3,170

6,687

89,778

188,346

 
 

基準コスト

実績コスト

 

(百万円)

(百万円)

A 社

68,306

69,318

B 社

44,764

41,032

C 社

22,348

23,848

D 社

34,552

33,080

 毎年度、国交省のホームページ上で公表

4.原価計算


上限運賃は、原価計算を行って、総括原価を超えないことを確認して決定されることとなります。
この総括原価は、「ヤードスティック方式による営業費」と、「その他の営業費」及び支払利息や配当金に相当する「事業報酬額」で構成されており、原価計算は、将来の3ヶ年間(平年度といいます。)についてそれぞれ算定します。その原価計算及びその結果のイメージは、次図のとおりです。

ここでは、ヤードスティック対象事業者を例にとり、原価計算の方法を解説します。



(1)ヤードスティック方式による営業費の算定
①適正コストの算定

ヤードスティック方式により総括原価として認められる営業費を「適正コスト」と言い、ヤードスティック方式による回帰式から算出された基準コストを基に次のとおり算定されます。
実績コストが基準コストを上回る効率化の劣っている鉄道会社は、基準コストが適正コストになります。 基準コスト=適正コスト(図例 A社)

実績コストが基準コストを下回る効率化の優れた鉄道会社は、基準コストと実績コストの合計額の1/2が適正コストになります。 (基準コスト+実績コスト)÷2=適正コスト (図例 B社)

この方式は、効率化に努力した鉄道会社にボーナスが与えられる新しいシステムで、公共料金規制で初めて取り入れられました。この効率化努力に対するボーナスは、鉄道会社がすべてとるのではなく、努力した鉄道会社と当該鉄道利用者とが共に分かち合っていこうという思想から、基準コストと実績コストの合計額の1/2とされているものです。
②経年努力の算定

効率化の努力については、経年変化の観点からも評価が行われます。
具体的には、前回の運賃改定時の実績年度と今回運賃改定時の実績年度について、それぞれ実績コストと基準コストの乖離度を比較して、その間の経年変化努力率を算定し、この努力率の1/2を適正コストに加減されます。
従前の運賃改定時は、実績年度のみを基礎とした平年度の原価計算が行われていましたが、経年努力の算定が加わったことにより、時間軸が考慮された立体的な原価計算システムとなっています。

(2)その他の営業費及び事業報酬の算定


①その他の営業費の算定

ヤードスティック方式による営業費以外の減価償却費、諸税等の経費は、実績年度の額、単価等の実績値を基礎として個々に積算してコストの算定が行われます。

②事業報酬の算定

鉄道事業は、安全で質の高い輸送サービスを安定的、継続的に提供されていく必要があります。
また、必要な設備投資を着実に進める必要性があり、その財務体質の健全化が図られていくとともに、金利等の経済情勢の変化や一般民間企業の実態を適切に反映させた事業報酬を算定するため、JR本州旅客会社や大手民鉄等においては、次のように対象事業資産に事業報酬率を乗じて事業報酬額を求めるレートベース方式が採用されています。
事業報酬額の算定
1) 自己資本比率は、全産業平均に準じた 30%としています。
2) 自己資本報酬率 自己資本報酬率については、公社債応募者利回り、全産業平均自己資本利益率(ROE)及び配当所要率の3指標の単純平均値の過去5ヶ年の平均値を使用します。
3) 他人資本報酬率
他人資本報酬率については、借入金等の実績平均レートの過去5年平均値を使用します。
事業報酬率 = 30%×(公社債応募者利回り+ROE+配当所要率)/3+70%×借入金等平均レート
事業報酬額 = 対象事業資産×事業報酬率-A
A=前回運賃改定時計画設備投資未達成額相当報酬額
設備投資計画の確実な実施を促すために、前回の運賃改定時における設備投資計画総額に実施額が達しなく、設備投資未達成額が生じている場合は、事業報酬額から減額されます。
以上のヤードスティック対象経費、その他の営業費と事業報酬額の合計額が総括原価を形成し、改定運賃による総収入額がこの総括原価額を超えないことを確認して、「上限運賃」が決定されます。

5.まとめ


新しい旅客鉄道運賃制度には、上限価格制の採用やヤードスティック方式の強化等の他、「手続きの簡素化」や、運賃改定時はもとより、運賃改定時以外にも運賃に係る情報をあらゆる媒体を通じて随時提供がされるよう、「情報公開のガイドライン」が定められています。
それぞれが有機的に関連して制度の構築がされています。
運賃は、鉄道会社にとっては輸送サービスという商品の値段でもあり、一般商店であればその値段は自由に付けられるところですが、公共料金としての鉄道運賃は、それはできません。
しかし、今般の新しい旅客鉄道運賃制度により上限価格制に移行し、水準となる上限運賃の範囲内では値段付けが自由に行えることとなり、この事は、これまでの鉄道120有余年の歴史で、画期的な出来事です。
利用者にとって、これまで単品メニューの運賃しか提供されていなかった訳ですが、これからは、この制度を利用して多種多様のメニューから自分に合った運賃を自由に選べるようになることを期待するものです。
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