運賃を下げると儲かるの?

運賃を下げれば、利用者が得をするのはもちろん実は鉄道会社も儲かるのです。

さて、何故でしょうか?
まず次の絵のようにように乗客は1人でガラガラの状態で運営している鉄道があるとします。

この電車が次の絵のように3人乗車すると収入はどうなるでしょうか?

同じ運賃額であれば、3倍の収入になります。半額にしても5割増収になりますね。これを「規模の経済効果」といい、「青春18きっぷ」などのいわゆる営業割引きっぷが意図しているものです。
ところで、運賃と需要は相関関係にあり、運賃が上がれば需要は減り、運賃が下がればが需要は増えます。(この関係を「需要曲線」といいます。)
運賃を半分に下げた結果、需要が増えてそれまでの1人から3人が乗車することになれば1.5倍の収入になります。

では、もう少し具体的に図で説明をしましょう。

次の図-1のAC1は、「平均費用」を示し、全費用を輸送量で割った商です。
MC1は、「限界費用」を示し、輸送量を1単位増加させた時の全費用の増加分であり、全費用を輸送量で編微分したものです。ここでは単純化し、費用は一定(平均費用=限界費用)と仮定しています。
DD’は需要曲線であり、MRは、輸送需要を一単位増加させた時の全収入の増加分を示す「限界収入曲線」です。
現在の運賃は、原価を越えないことを確認して上限運賃P2を認可するという運賃規制がされています。

この会社の全収入額及び全費用額は、P2Fq2の黄色の面積分であり、この時点では、全収入と全費用の差分の「利潤」は発生していません。また、q2の輸送量を担っています。この状態は、完全競争市場の市場価格が平均費用と等しくなって利潤が0となるまで参入が続いた結果と同じ状態を認可により作り出しているといって良いでしょう。

ところで、完全競争市場とは、どのようなものでしょうか。
その定義は、
(1)市場には大勢の売り手と買い手が存在して、単独でその需要と供給を変えても価格に影響を及ぼさない。
(2)市場で取引される製品(サービス)は、同質である。
(3)売り手と買い手は完全な可動性を持ち、自由に市場に参入・退出ができる。
(4)売り手と買い手は完全な情報を持ち、製品(サービス)の価格や質を完全に知っている。
とされています。(中田善規「経済学で医療を診る」週間医学会新聞1999年6月21日第2343号)
設備投資額が極めて高く、新規参入が困難で地域独占性の高い鉄道事業には、このような市場は想定しにくいですね。

図-1上限運賃規制

しかし、運賃規制がなく独占下の場合は、図-2のように利潤を最大化すべく限界費用と限界収入が等しくなるようにEの高さのP1の運賃額を決定することとなるでしょう。
この事業者の全収入額はP1Eq1の面積分であり、全費用額は、P2Kq1の黄色の面積であり、全収入額と全費用の差額分P1EKP2の面積分が利潤となります。
運賃規制下の図-1時においては、このP1EFKP2部分相当が消費者に還元されている訳ですが、独占下で利潤を最大化した場合には、この一部のP1EKP2が鉄道会社に移転することとなり、またEFK分は消えてしまいま。これを独占による「厚生損失」と呼ばれており、独占から競争への移行による配分効率の改善は、この厚生の増加が図られることにある訳です。輸送量についてはq1となり、運賃規制を受けている場合に較べて減少しています。

図-2独占下の利潤を最大化した場合

企業は、経営の効率化や、技術革新等により日々コストの低減の努力を行なっています。
また、現在運輸省においては毎年事業者ごとに実績年度の基準単価、基準コストが発表されており、企業間における競争が促される
仕組みとなっています。
ではそれらの努力の結果、図-3のように、現在の上限運賃規制の中で、AC2まで費用を低下できたとします。
すると、企業は限界費用と限界収入を等しくして、利潤が最大となるGの高さのP3の運賃に、P2から値下げが行なわれることとなります。
その結果、企業はには、P3GLP4の超過利潤が生じ、儲けとなるとともに利用者にはP2FGP3相当分が低廉な運賃となって還元されることになります。

図-3コスト削減と運賃値下げ

一定の期間をおいて次に運賃改定を受ける場合は、図-4のとおり、P4の運賃となり、先の超過利潤分P3GLP4が利用者に還元され、GHL分の厚生の増加が図られることになります。
このような運賃改定サイクルが、一定周期をもって行なわれてゆくことが一番望ましいわけですが、実際には運賃改定周期が長くなることによって利用者へ還元されていくことになると思われます。

図-4

運輸省監修「これからの運賃」第1編、慶応義塾大学名誉教授藤井弥太郎著「旅客運賃規制の方向」P18~26を参考に記述しました。